企画室

概要

●シナリオ
 ・メイン
 ・イベント案
 ・呼び方

●キャラクター
 ・クラウディオ
 ・シャルロッテ
 ・フランシスカ

●背景・舞台

●音楽


旧企画

弱弱しく松明が照らし出す石畳の廊下を老齢の男と壮年の男が早足で歩みを進める。
老齢の男が壮年の男に、問い掛けた
「……からの……の聞き出しはどうだ?」
「残念ながら……。喋る気配は」
壮年の男から報告の内容に老齢の男の焦燥感を加速させるには充分だった。
「……だと。このままだと……、だから……を……」
窓から入ってくる月明かりが苦悶表情の浮かべる彼らを照らし出した。
「しかし、彼はまだ……」
壮年の男が難色を示すのが予め分かっていたかのように最後までしゃべり終らぬ内に老齢の男が話した。
「仕方がない。……が、……を……ないのだから、出来るなら私も……」
「了解。……ターゲットを……へ……します」
一度は難色を示したものの従うようである。
老齢の男と壮年の男は、石畳でコツコツと足音を鳴らしながらその場を離れていた。
物陰から隠れてそっと見ていた私は歯噛みしながら、彼らよりも先に彼女らの場所へと足音を殺しながら急いだ。

暗転

タイトル

(bg 空)
空を泳ぐ雲を掴むように空に手を伸ばす。
【クラウディオ】「届かない……」
もう少しと精一杯、腕を伸ばす。
【クラウディオ】「まだ、届かない……」
かつて届かなかった手を届かそうとするように。
ザァッと音を立てて強い風が吹き過ぎ、思わず腕で目を庇った。
風が収まると、一眠りしようかと寝転び、ぼんやりと空を見上げていた。
【シャルロッテ】「……何をしているの?」
ふりそそぐ光を遮るように、黒い影が自分を見下ろしている。
【クラウディオ】「ん〜」
風で顔にかかる銀髪のツインテールの髪をかきあげ、少しの苛立ちを滲ませた口調で言った。
【シャルロッテ】「だから、何してるの?」
【クラウディオ】「神風でも吹いて、シャルのスカートの中でも覗け……」
その時、強烈な殺気を感じたので素早く身を起こした。
(bg 森?)
先ほどまで身をおいていた場所にはシャルの足が突き刺さっていた。
【シャルロッテ】「まあ、いいわ。クラウが何していようと、別にどうでもいいし!!」
【クラウディオ】「なんて事をっ!俺はシャルの事をこんなにも…」
シャルを抱き寄せようとするが先ほどまでいた場所には既にいなく腕は空を切る。
【シャルロッテ】「シス姉がいつもの所で待ってるから。冗談なんて言ってないで…」
【クラウディオ】「何を照れているんだい、シャ…」
言い終わる前にポフン! と、何かが顔に当たった。
【シャルロッテ】「いいから!それ食べて、早くシス姉の所に行きなさい!」(てれ短→怒り短→消)
と言い終わると素早く身を翻し、逃げるようにスタスタとその場を去った。
投げつけられた包みを開けると、二人前はありそうなサンドウィッチが顔を覗かせた。
【クラウディオ】「まったく、つれないね。シャルは」
嘆息しながら、サンドウィッチを口に運びつつシスカの待っているであろう場所へと足を進めた。
木漏れ日が差し込む木陰で、木の幹に背を預けながらシスカは佇んでいた。
何か閃き、気配を消し、猫のように足音を立てずにシスカの背後に迫った。
【フランシスカ】「ようやく来ましたわね」
青い髪を風になびかせながらシスカは口元に笑みを浮かべている。
【クラウディオ】「やっぱシスカには敵わないなぁ」
ボソッと呟いた。シスカは何のことかと怪訝な表情をほんの一瞬浮かべたが、すぐに冷静な顔に戻った。
【フランシスカ】「シャルロッテには先に話してますけど、明朝、クラウディオとシャルロッテ、わたくしの3名でヘズミックに野盗退治へ向かいます」
【クラウディオ】「シャルもですか?」
彼女の言葉に少し驚きながら言った。
【フランシスカ】「今回は野盗の規模も分かりません。あくまでも保険みたいなもです」
気を使ったのか少々明るめの口調で答えてくれた。
【フランシスカ】「なお、今回の相手はわたくし達と同じく人狼ですわよ。今までの蝙蝠(ヴァンパイア)や蛇(ナーガ)ではありません」
その後、シスカは依然レポートでも読むが如く淡々とした口調で伝える。
………・
……

シスカの話を要約すると、ヘズミックが野盗に襲われて食料等が心もとないので届ける。
再び野盗に襲われるかもしれないので、俺たち3人で先に退治する。
分かっていると思うが、鎧等は人狼の牙爪には意味を成さない。
攻撃するなら銀製の刀剣でも用意して置きなさい。
後、人数が不明なので別に人狼化しても構わない…と、頭の中で整理していると
【フランシスカ】「最後に今回は不特定多数の前にでます。だから純血特有のその目立つ赤毛を、これで染めて置くといいですわよ」
とシスカの手から放物線を描きながら飛んできた物を受け取る。
【クラウディオ】「ありがとう、シスカ」
シスカのもとに駆け寄り、抱きつこうとする。
が次の瞬間にシスカの姿はなく、首元に鈍い輝きを放つ銀製のナイフが喉元ギリギリで止まっている。
【フランシスカ】「いつまでその軽薄な仮面をつけているのですか?死にますわよ」
シスカの鋭い殺気を感じ、冷や汗を流しながら
【クラウディオ】「俺にはシスカが何を言ってるのかよく分からないな」
普段と変わらない様子でシスカに答える。シスカは次の句を告げず、硬直したまましばらく時間が過ぎた。
【クラウディオ】「わたくしは心配して言ってるに…全く、それが何時まで続くか見物ですわ」
シスカは諦めたのか、はぁ、とわざとらしい大きなため息を吐くとナイフを下げた。
【クラウディオ】「いいですわ。明朝にお迎えにあがります」
そう言い残すと、シスカはさっさと姿を消した。
シスカのことが気にかかるが、 いくら考えようと推測以上の域を出ない。仕方なく考えるのを諦めて、自宅に向かう道を歩き始めた。
//他ヒロイン登場するなら森抜けあたりでばったり。
//他ヒロイン登場するなら明日の準備してる所に押しかけられる
//早朝イベント 他ヒロインのために飛ばす
………
……

家を出てから丸1日、お昼を食べて数時間歩き続けていると、シャルに疲労が見え始めた。
【クラウディオ】「シスカ。後どれくらいでヘズミックに着くんだ?もし長いようなら少し休憩を…」
シスカの手で口を思いっきり塞がれた後、同時に引きずられ物陰へと身を潜める。
【フランシスカ】「ヘズミックまでは、2時間ほどでしょう。シャルが厳しいなら少し休んでから向かうと良いですわ。わたくしは、アレの後をつけて彼らのアジトを見つけてから向かいます」
シスカの指の先を目で追うと、十数人の人狼に襲われてる大きな荷馬車がいくつか見える。
【シャルロッテ】「えっ、と…その…助け、ないの?」
困惑の表情をうかべながらシャルが問いかける。
【フランシスカ】「あれでも、助ける必要がおありですか?」
5,6人の女人が、手枷をはめられ1列になって、野盗に首輪を引かれて歩かされている。
【クラウディオ】「奴隷商人か…。でも、彼女らは助けないとな」
そう呟くと、野盗に向かって一直線に飛び出す。
【フランシスカ】「ま、待ちなさい、クラウディオ!!」
シスカの制止する声が耳に届かなかったわけではないけれど、野盗に向かって踏み込んで銀製の剣を一閃二閃三閃―――。次々に野盗を打ち倒す。
【野盗】「うわぁぁぁあぁあああっっ!!」
と野盗の内の一人が叫びながら逃げ出し始めた。
これに続き、残る野盗も次々に我先にと逃げ出し始めた。
野盗を指さしながら、後はよろしくと言わんばかりにシスカに向かって笑顔で手を振る。
【フランシスカ】「クラウディオ、貴方って人はぁぁぁぁぁぁぁ!!わたくしはあの野盗の後をつけますので、あなた達は当初の予定通り行動してくださいまし!」
シスカは人差し指をピッと立て、焦り気味にそう告げると野盗の後をつけるために走っていた。
【シャルロッテ】「クラウ、大丈夫なの?」
急な展開にシャルは少し戸惑いながらも尋ねた。
【クラウディオ】「勝手に飛び出したから後で怒られるだろうけど、そんな事気にしなくて大丈夫」
と答えながら被害の確認の為に奴隷達の元へ向かう。
露骨な非難の視線を向け、遠巻きにしながらヒソヒソと話をしている。
暫くするとその中の一人が、
【奴隷1】「私たちはこれからどうすれば良いのでしょうか?従うべき主も持たず、帰る場所も頼れる人もお金も無い」
【奴隷1】「あなた方は私たちを助けたつもりなのでしょうが。私たちは明日食べるものさえない。これから毎日死に怯える日々です。それでもあえて言いましょう。商人そして、野盗から解放してくださり、ありがとうございます」
奴隷は皮肉たっぷりにお礼を述べた。
【クラウディオ】「あはは、それは申し訳ない。でも、あなた方が危険な目にあっていたから助けたんだけど」
少しの嫌味を含みながら謝ると、非難の視線は止むどころか更に強くなってきたような気がしないこともない。
それに呼応するように奴隷達が大ブーイングを始めた。
「少しだけ早く助けに来てくれなかったのですか」
「私たちの今後の保証をしてくれない限りここを動かないよ!」
【クラウディオ】「早く助けに来てくれって、それはいくら何でも無理だよ。」
奴隷達から浴びせられるブーイングに淡々と答える。
【クラウディオ】「後、生活に困るって言うならそこの小さい娘さんなら…俺の性奴れ」
いきなり頭に衝撃が走り、背後からガシリと肩をつかまれた。
ギギギ、と音がしそうなニブい動きで、首を回した。
【シャルロッテ】「何て言おうとしたのか教えてくれませんか?」
ニッコリと表面上は微笑んでいるが、良く見ると笑みも引き攣っているように見える。
【奴隷2】「そこの薄い胸の方、口を挟まないでいただけますか?」
会話の途中で割り込まれたのが気に入らなかったのか、先ほどよりも苛立った口調で話しかけた。
【シャルロッテ】「す、すいません。よく聞こえなかったのでもう一度お願いできますか?」
シャルは凍りつきそうなほど冷たい視線で一瞥した。
【奴隷2】「そこの薄い胸の方、口を挟まないでいただけますか?」
プチンとシャルの堪忍袋の緒が切れたような音が聞こえた気がする。
シャルが彼女の言葉を遮るように傍にある荷馬車の車輪を乱暴に蹴りつける。
すると、野盗の襲撃でガタがきていたのだろう、荷馬車は盛大な騒音をたてて壊れた。
辺りがシーンと静まり返ったのを確認してからシャルは語りだした。
/./デフォ絵1
【シャルロッテ】「商人や野盗の血の匂いに惹かれた飢えた狼とか野犬が一杯やって来そうですね。夜は特に視界も確保出来ないから危ないじゃないかしら」
すっと目が細められ周りの空気が冷たくなりシャルがクスクス笑って、すっと指をさす。
【シャルロッテ】「そうね、そこの髪の長いあなた。美味しそうな肢体をしているわねぇ。きっと、狼に胴体をかまれて振り回され、食うのに邪魔な服を剥ぎもせず、その豊満な胸を食いちぎられ、内臓のつまった腹を勢いよく貪られるんじゃないかしら。生きたまま自分の内臓を貪り食れる深くおぞましい恐怖。ねぇ、すごく見物だと思わない?そこの背の高いあなた、うめき声を上げつづける仲間の弱り行く声を助けることも出来ずに聞く悲惨な、恐怖。震える手で耳を塞いでも聞こえるでしょうね、もがき苦しむ心に重たく響いてくる悲鳴が。生きたまま食われていくなんて、想像もできないくらいの陰惨な恐怖よね」
【奴隷達】「いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
奴隷二人がカタカタと怯えながら震える声で悲鳴を上げた。
シャルは悲鳴に満足したのか次の標的を選び始めた。
【シャルロッテ】「次はそこの背の低いあなた」
//デフォ絵2
そしてシャルに指をさされた彼女はヒッと短い悲鳴を上げ、恐怖で青ざめた表情で彼女自身を指さす。シャルは彼女らの苦悶に満ちた表情に嗜虐心がそそられたのか、そうよとうなずくと悪魔のような微笑で語りだした。
………
……

数十分後、恐怖に身もだえしながら、大半の奴隷達は呻き、涙を流していた。
【シャルロッテ】「彼女達はここを動かないそうなので、私達はそろそろヘズミックに向かいましょうか」
と話しかけられると奴隷たちは悲鳴をあげながら縋り付いてきた。
【奴隷達】「お願いです。私たちを置いていかないでください!」
それから、壊れた荷馬車を修理し、ヘズミックに着いた頃にはすっかり日も暮れていた。
―― ヘズミック ――
到着を待っていくれていたのか、すでにシスカが腕組みをして仁王立ちしていた。
【フランシスカ】「ずいぶん遅いご到着ですこと」
顔はニコニコしてるけど明らかにこめかみ辺りに怒りマークが現れたように見える。
【シャルロッテ】「ごめんなさい」
シスカは申し訳なさそうに謝るシャルを見てジロリと露骨に不機嫌そうな視線を寄越す。
【フランシスカ】「こんなにぞろぞろと引き連れて、どこかのハーレム漫画の主人公にでもなったつもりですか?」
奴隷達はこれから始まる事を察して荷馬車に逃げ込んだ。
そんな状況も気にせずに声を張り上げ
【クラウディオ】「わざわざ待ってくれているとは、そんなに寂しかった?」
と叫びながら高々と飛びシスカの元へ飛び付きにかかる。
シスカは上体を逸らして紙一重であっさり避けられ、ズシャ! っと顔から地面に突っ込んだ。
間髪をいれずに、シスカは上体を曲げ顔を覗き込むように問いかける。
【フランシスカ】「あなたから何か言うことはないのかしら?」
シスカの目元はやや吊り上り、剣呑な雰囲気を放ち問いかける。
【クラウディオ】「先の件に関して謝ることはないよ」
強い口調ではっきりと断言する。シスカは一瞬沈黙してから、こちらの顔を窺うような視線を向けた。
【クラウディオ】「彼女らが野盗に襲われているのを黙って見過ごせるわけがないだろう」
シスカは軽く眩暈がし、疲れが一気に押し寄せる。倒れそうになる体を支えるため壁に手を付いた。
【フランシスカ】「クラウディオはその十数人のためにこの村の人たちが危険になるかもしれなかったのですよ。それが分かっていて…」
【クラウディオ】「シスカを信頼してるから大丈夫だ、問題ない」
はぁ、とため息をつきながらシスカは諦めたように呟く。
【フランシスカ】「もういいですわ。作戦は深夜。3時間後に開始しますわ。村人には話を通してありますから、それまでに疲れを出来るだけ癒しておくといいですわ」
怒りを込めた口調で言い放つと、俺を一瞥してからその場を離れた。
それから、奴隷達の事を村長と話し合い、ここに残りたい意思のある者は残ってもらっても構わないと了承を得たり、宿の手配等々をやり終た。
少し時間が出来たので、宿の屋上に腰を下ろし雲ひとつ無い夜空の月を見上げていた。
【クラウディオ】「いよいよか…」
この後に作戦を控えて妙に気分が高揚している為か、人狼の血が普段以上にうずくのを感じ、思わずククッと忍び笑いが漏れる。
【シャルロッテ】「何が可笑しいのと聞いても答えてくれないのでしょうね。隣いいかしら?」
唐突に声をかけられた側を見ると、ツーンと澄ました顔のシャルがいた。
しかし、よく見ると頬を赤く染めている。
【クラウディオ】「逢いたいからって探し回ってくれるなんて…」
【シャルロッテ】「な、何を言ってるのっ!!」
シャルは顔を赤くしながら慌てて反論する。
【クラウディオ】「そんな可愛いシャルには、チューしてあげる!」
シャルはスカートをギュッと握り締め、耳まで真っ赤に染めて怒鳴る。
【シャルロッテ】「もう、今はまじめに話したいの!」
シャルは軽く溜息をつきつつ、一呼吸おいて口を開いた。
【シャルロッテ】「クラウ。あなた、今度の作戦はシスカと一緒に野盗のアジトを襲撃するのでしょ、大丈夫なの?」
シャルの薄紫色の2つの目が心配そうに揺れている。
【クラウディオ】「シャルが心配するようなことは、何もない。大丈夫さ」
だが、今だ若干の不安の残る顔をしている。
【クラウディオ】「そっちこそ。この間は動けなかったようだけど、大丈夫か?」
シャルの肩を優しく掴んで穏やかな口調だが、たきつけるように問いかける。
【シャルロッテ】「心配しないで、あなたには負けないわ」
シャルは肩から胸に伸びるのが分かったのかクラウの指先を手ではねのける。
【クラウディオ】「単なる勝ち負けではないんだぞ」
少しの沈黙の後、凄みを帯びた静かな口調で言った。
【シャルロッテ】「分かっているわよ!精々頑張りなさいよね」
そう言うと、すっきりした顔で立ち去るシャルを見送った。
【クラウディオ】「さてと、行きますか」
独り言を言いながら、集合場所である村の北入り口に向かった。
村の北入り口では、十数人の人たちが入り口に固まって打ち合わせをしている。
その様子をぼーっと眺めていると、打ち合わせが終わったのか、その中からシスカが顔を見せた。
【フランシスカ】「時間ちょうどに到着ですか」
シスカは、わざとらしい咳払いをすると
【フランシスカ】「現時刻をもって作戦開始です」
その場にいる全員に聞こえるような大声で告げた。
緊張しながらもうなずいて、それぞれ指示された持ち場へ向かう。
【フランシスカ】「クラウディオは、当初の予定通り、わたくしと一緒に来てもらいますわ」
シスカはいつもの落ち着いた丁寧な口調でそう告ると、こちらの返事も確認せずにくるりと踵を返して去って行く。村の北入り口を抜けて森へと向かうシスカの後を慌てて追い駆ける。
月明かりも届かぬ視界のきかない夜の森で、木々の間を素早く駆け抜ける。
夜空と同じぐらい漆黒に染まっていて、辺り一面が闇に包まれているが、シスカはそうではないらしく森の中を器用にぶつかりもせず、さっそうと駆けていく。
置いていかれないようシスカの後を同じコースで必死について行くが、突然何かに視界を塞がれた。それが木の幹だと認識する。疾走から急激な方向転換をし、木の幹を蹴りつけ加速しつつ崩れそうになる姿勢を無理やり身体を起こしてシスカについて行く。そうして暫くした後、開けた場所に出るとシスカが急に止まった。その頃、身体には木の枝で引っ掻き傷がいくつも出来ていた。しかし、シスカは傷一つ無く息も乱さずに立っていた。
【フランシスカ】「あそこが、奴らのアジトですわ。それなりの戦力が中にいるはずです。慎重に行動してください」
岩を掘り、一見洞窟のような外見をしている場所を指さしながら言った。
そう言うと、シスカは先頭に立ってアジトへ歩を進める。
壁に掛けられた幾本かの大松の炎がゆらゆらと辺りを仄かに照らす床は整備すらされておらず、所々にゴツゴツした岩が飛び出ている。
少し進むと岩へ取り付けられた飾り気のない無骨な扉が姿を現した。
【クラウディオ】「引っ越して間もないのか、徒党組んで間もないのか」
ボソッと小さく呟いたのだが聞こえしまったらしく、扉の前で中の様子を伺っていたシスカが応える。
【フランシスカ】「どちらでも良いですわ。中に7人確認しました。他に道もありませんわね」
シスカは辺りを見渡し、そう言ってナイフを出して構える。
【フランシスカ】「仕方ありませんわね。正面はクラウディオに任せますから、このまま飛び込みますわよ。」
了解、と小さくうなずくと、扉を蹴破る勢いで飛び込む。
そのまま勢いにまかせ突進し、正面の野盗を蹴り飛ばす。 ほとんど抵抗無く、蹴られた野盗は吹き飛ぶ。
異変に気づき「いったい何事だ!」と扉から顔出す野盗に向かってシスカが取り出したナイフを最小限の動きで投げる。飛来するナイフに気づいた時には既に遅し、ナイフは野盗の側頭部へと深々と突き刺さり、力なく野盗は床に倒れた。
それを見て慌てふためく野盗達。その隙を縫ってシスカが「失礼」と冷酷までに的確にナイフを走らせる。野盗達は、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。シスカに負けじと野盗の顎を蹴り上げ、回し蹴りで蹴り飛ばすが、視界の端でシスカが1人倒しているのが見えた。
【野盗】「女や子供相手に、何を手間取ってんだよ」
怒鳴り声と共に奥の扉が大きく開いた。
そこから、リーダー格らしき黒味がかった茶髪の男が緩慢なほどのんびりと扉から現れた。
そして、ため息をつくと瞳を細めてにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
【リーダー格】「俺の手下がヘズミックを襲っていると言うのに、こんなところに居ていいのか?」
勿体ぶったゆっくりとした口調で告げている所にシスカの放ったナイフが飛来するも二本の指で受け止める。
【リーダー格】「焦るんじゃねえよ」
くくっと声を押し殺して笑っている。
【フランシスカ】「そのような戯言に付き合う暇は無いですわ」
静かで冷ややかな言葉を紡いだ。
【リーダー格】「そうかい」
どこか嬉しそうに、それでいてギラギラとした好戦的な雰囲気を隠そうともせずに含み笑いを洩らしている。
シスカがリーダー格らしき男に聞こえないよう静かに話しかける。
【フランシスカ】「クラウディオ。わたくしが攻撃を仕掛けたら、村に向いなさい。いいですわね」
【クラウディオ】「シスカの方が適任なんじゃ?」
すかさずシスカに向かって、素直にそんな疑問をぶつけた。
【フランシスカ】「クラウディオ。純血種である、あなたの方が適任ですわよ。わたくしよりも、ずっと足が速いのですから」
まさかシスカにそう諭されるとは思いもしなかった。
無言を肯定と受け取ったのか、シスカはナイフを構えて投擲体勢で凄まじい勢いで突進する。それと同時にナイフを投げて注意を引く。
【フランシスカ】「クラウディオ」
言われるままに従うなんてガラじゃないが、取りあえず洞窟の外まで走り抜ける。
外へ出ると人狼化する為に自らの中の獣を胸の内から呼び起す。
湧き上がる衝動に任せると、獣の耳が生え、爪が鋭く変形し、鼻も長く突きで、緋色の体毛が上半身を覆う。
【クラウディオ】「がはっ、くはぁああ!」
そのまま気を抜いた瞬間に呼び起こした暴れる獣の意識、破壊衝動に意識を持っていかれそうになる。その凶暴な破壊衝動を理性で押さえつけ、制御する。
息を吸う時間も惜しいと走り出し、地面をえぐり土煙を上げ加速する。
少しでも早く村へとたどり着けるよう、急ぐ。飛ぶように駆けるが、まだ足りない。
可能な限り早く。早く。もっと早く。
まだか、まだ見えないのかと、心の中ではジリジリした焦燥感が広がる。
風を裂き、ただひたすら森の中を走り続ける。
そしてしばらく走ると、やっと森を抜け、ヘズミックに着いた頃にはすでに、村のあちこちで火の手が上がり始めている。
そこには悲鳴、怒鳴り声、罵声、助けを求めるの声、呻き声、叫び声、騒音。様々な音や声が溢れていた。
【クラウディオ】「くっ!」
怒りに拳が震え、ギリギリと歯を噛み締めている。
人目を引かないように人狼化を解くと同時に破砕音が響き渡り、路地から多くの人が悲鳴をあげながら走って逃げてくる。逃げる人々とは反対方向へ一刻も早く音の発生源に駆けつけるため、走り始める。
急いで駆けつけると目に飛び込んできたのは、爪を振り上げた巨大な灰色の人狼がシャルに襲いかかる光景であった。シャルは折れた剣を放り捨てると背後を守るかのように両手を広げ、憮然とした表情で灰色の人狼の前に立ちはだかった。
【灰色の人狼】「ほお、えらく可愛い譲ちゃんじゃねぇか、俺のペットにしてやろうか。えぇ?」
灰色の人狼の言葉に対してピクリとも反応しないシャルに、仕方ねぇなと手を上げる人狼。
シャルを助ける為、とっさに灰色の人狼に迫り、ナイフで切りかかる。しかし、攻撃は易々と後退されてかわされる。
好戦的な瞳がこちらを向き、視線が交わった。
【灰色の人狼】「黒髪の短髪に緋色の瞳。貴様か…俺の部下を可愛がってくれたのは」
その低い声は、溢れ出す様な怒気を孕み、激しい勢いで吼えた。
【クラウディオ】「あんた、怖じ気づいて尻尾巻いて逃げちまった奴らの猿山の大将かい?」
シャルからなんとか注意そらす為にあからさまな安い挑発的な言葉を吐いた。
【灰色の人狼】「そんな安っぽい挑発に乗ると思ってるのか、小僧ぉぉぉぉぉぉぉ!」
雄叫びを上げながらシャルへと突進し拳を振り下ろす。とっさに駆け出しシャルを突き飛ばして覆い被さる。背中に人狼の爪が容赦なく振り下ろされる。
灰色の人狼に付けられた傷はじわじわと熱を持ち、背中はすぐに焼けるように熱くなった。
【少女】「もう……いやだ……」
シャルの腕の中には抱えられている年端も行かないような少女が泣き崩れていた。
【クラウディオ】「かっこわりぃな、俺。こんな小さな子泣かせ…て…げほっ…」
口の中に溜まった大量の血を吐き捨てる。
【シャルロッテ】「クラウっ!」
足元には夥しい量の血の池が出来ていた。
【クラウディオ】「だ、大丈夫だからっ…シャルは俺が守るから……」
一方的に約束をし、視界が黒く染まり次の瞬間には意識が途切れた。
【シャルロッテ】「いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
シャルの悲痛な叫びが声が響き渡り、俺の身体が崩れ落ちる。
【シャルロッテ】「私が・・・この村もっ・・・クラウも・・・守るっ!その為に村に残ったんだからぁぁぁっ!!」
背後の二人を守る為に震える手でナイフを拾い灰色の人狼に向け、怒りを露わにして叫ぶ。そうしないと崩れそうになる心を励ますように。
【灰色の人狼】「それは無理ってもんだぜ、譲ちゃん」
灰色の人狼は力強く地面をけりシャルに向って突進する。
灰色の人狼の一撃にシャルは吹っ飛び、背中から家屋にぶつかる。
【シャルロッテ】「かはっ・・・貴方なんかに負け・・・負けない、負けられない」
シャルは必死に己を奮い立たせ立ち上がった。
………
……

【クラウディオ】「っつぅ!!」
目を覚ました瞬間、背中に鈍い痛みが走る。
目の前に立つシャルの服は、あちこちが破れ鋭い切り込みが無数に入っていた。
気を失ってからそれ程時間は経っていないのか、それ以外は状況は変わらず以前村のあちこちからは火が上がっている。
いくら人狼と言えど傷が大きすぎる。その上、血を失いすぎた。
再び失いそうになる意識を必死に止めて、ふらつく体を起こし、何とか立ち上がった。
気を抜けばすぐに崩れそうになる足を必死になって立て直しシャルの前に出る。
【シャルロッテ】「ク、クラウ?」
【クラウディオ】「いてぇ…だせぇなよな、俺。そうだろ?おっさんっ!!」
自身を嘲り笑い、灰色の人狼に叫びながら人狼化する。
【灰色の人狼】「緋色の毛…純血種か!?」
【クラウディオ】「純血種だから何だってんだ。俺はただ、おっさん。あんたを倒すだけだ!」
白い牙をむき出し、野獣の如き咆哮を上げながら灰色の人狼の拳を迷い無く叩きつける。灰色の人狼は眉を動かしもせずに、反撃とばかり腕を鋭く振り下ろす。
地面を蹴って、ギリギリ後ろに跳んでかわし、その腕を狙い蹴りを放つ。
しかし蹴り足を掴まれて肘を振り下ろそうとしている。折る気だ!
すぐに掴まれた足を軸にして、反対側の足で側頭部へ蹴りを繰り出す。
灰色の人狼は掴んでいた腕を放し、両腕で頭部を防御する。
【灰色の人狼】「くっ!」
防御の上からでも放った蹴りは灰色の人狼を吹っ飛ばす、
【灰色の人狼】「ククク、あははははははははっははっ。面白い……面白いな小僧!」
灰色の人狼は、ふと笑みを抑え拳を構えて前へと踏み出す。
【クラウディオ】「はぁ、はぁっ…まったく、余計な……手間をかけさせないで、欲しいな」
額からは脂汗がしたたり、背中の傷口からは依然として血が流れ落ちていた。
苦しげな荒い息を吐きながら、思いっきり地面を殴り、その衝撃に周囲には広々と砂塵が舞い、月明かりを遮る。六本のナイフを投擲し駆け出しつつ、さらにナイフを二本投擲する。
【灰色の人狼】「うおおおおぉぉぉ」
急所に刺さりそうな物だけ弾かれ、残りは灰色の人狼の肩や腕に刺さった。
もちろん、それを特に気に様子もなく灰色の人狼は思い切り腕を振り上げる。
砂塵から影が飛び出すが、灰色の人狼は見向きもせず、ただ呟いている。
【灰色の人狼】「そんな小細工が俺に通用すると思うな。小僧!」
それに呼応するが如く、もう一つの影が砂塵から出てくる。
最初の影は灰色の人狼を通り過ぎ、家屋の壁に小さく「コンッ」と音を立てて、跳ね返ったのは石。
振り下ろされる灰色の人狼の腕。それを紙一重でかわすが、頬に走る一筋の傷。
【クラウディオ】「これで最後だ!おっさん!」
がら空きになった灰色の人狼の胸に腕を伸ばす、銀製のナイフが胸を貫いた。灰色の人狼は膝を折り、どさりとうつ伏せに倒れた。
それを見届けるとシャルの叫び声を聞きながら、再び気を失い倒れた。
………
……

懇願し涙を流しながら緋色の長い髪の黒のロングドレスを着た女性に手を伸ばして、その場で留まろうとする。
しかし、メイド服を着た女性に手を引っ張られて、炎に照らされ赤く染まった夜の森の中へと無理矢理引きずられていく。それを、ロングドレスの女性はこちらに少し振り返り悲しげな、それでいて慈しむような瞳で眺め見送ると、きびすを返してもと来た道を戻っていった。後ろで、追跡者達とロングドレスの女性が死闘を繰り広げているのだろう。
激しい咆哮と、木々をなぎ倒す破砕音が耳に届く。
いくばくかの時間の後、全身の毛を逆立てさせるような一際大きな咆哮が聞こえた。
慌てて後ろを振り向く。そこには緋色の毛に覆われた狼の姿が木々の間から見えた。緋色の狼は大きく口を開けて咆哮し、勢い良く飛び上がり前足を地面へと振り下ろした。
地面は大きな破砕音を出し砕け散り、土煙を巻き上げた。衝撃の余波であろう暴風に襲われる。
「――様っ!!」
メイド服を着た女性は緋色の狼に向け悲痛な声をあげ叫ぶが、吹き荒れる暴風でかき消された。
その後、再び二人を暴風が襲う。
一度目より強力な暴風に呑み込まれ、二人とも吹き飛ばされた。
大木の幹にしたたかに打ち付けられ衝撃が全身を走った。
衝撃で自由に動かない体。
それでも手を伸ばし、声にならない叫びをあげ続けていた。
そうして夢から覚めると、見慣れた天井があった。カーテンの隙間から朝日が差し込む。
緩慢な動作で視線を動かすといつも見慣れたメイド服が目に付いた。
【フランシスカ】「目が覚めたみたいですわね。いつまでも目を覚まさないから、シャルロッテが心配していましたわよ」
シスカは特に意外そうな素振りも見せず、表情も変えず目線だけを脇にいるクラウにため息をつく。
【フランシスカ】「しかし、野盗ごときに傷を負わされるなんて情けないですわ。まぁ、でも…シャルロッテを助けたのだから及第点でしょう」
そう言って、シスカは珍しく少し嬉しそうに頬を緩めた。
【クラウディオ】「及第点なんだろ?だったら、冬場は寒いし、どうしようもなく人肌恋しいから!添い寝してくれ!」
その瞬間、枕がボフッと音を立てた。枕には銀製のナイフが突き刺さっていた。
【フランシスカ】「そんな戯言が言えるなら、明日からでも大丈夫ですわね。後、寒いなら『それ』を抱いて寝ると裂傷で暖かく感じれますわよ」
シスカは銀製のナイフを指さし細めた瞳で冷やかに告げると、音も立てずに部屋を出て行った。
それから間も無く廊下からとたとたと足音が聞こえてくる。
足音は、部屋の前でぴたりと止まった。
幾ばくかの時間が経過した後、シャルは消え入りそうなか細い声が聞こえた。
【シャルロッテ】「えっと・・・その・・・入ってもいい?」
【クラウディオ】「もちろんいいけど・・・どうかした?」
【シャルロッテ】「あ、あはは・・・」
シャルが乾いた笑いをこぼしながら部屋に入ってきた。
【シャルロッテ】「あの・・・ヘズミックでの事なんだけど・・・ごめんね」
シャルは言いにくそうに言葉を絞り出した。
【クラウディオ】「もう終わったことだ。気にするな」
シャルはホッとした笑みを浮かべた。
【シャルロッテ】「・・・・・・・それと・・・」
【クラウディオ】「それと?」
先を促すように、オウム返しに聞き返す。
【シャルロッテ】「庇ってくれて・・・ありがと」
シャルは顔をそむけ、僅かに頬を赤くしながら小さく呟いた。
【クラウディオ】「なんだ、そんなことか」
こともなげに言うと、ああでも。と言葉を続けようとすると、一陣の風が吹き、部屋の明かりが一瞬にして消える。
【シャルロッテ】「きゃあああっ!」
そして悲鳴とともにシャルが飛びついてきた。
シャルを見据えて真剣な表情で語る。
【クラウディオ】「そういえば・・・村で今こんな話が流行ってるんだけど・・・
時刻は夜も深まり、もう日も変わろうかという頃、誰かの叫ぶ声が森の奥の方から聞こえてくるんだそうだ。
『誰か……助けて。痛いよ……苦しい。誰か…助け……て』
という助けを呼ぶ声が森に響く。しかし行けども行けども声の主らしき人は見当たらない。
だけど、森の中には重く、深い助けを呼ぶ声が響き続けている。
諦めて帰ろうとした時に突然肩に手を置かれ、後ろから女の声で
『誰か、お願い…だから……助けて…よ』
と、か細い声が耳元で囁かれ、恐怖のあまり村人は一度も後ろを振り向かず家まで走って帰った。」
【クラウディオ】「という噂話が・・・シャル、廊下の方から変な音が聞こえないか?」
【シャルロッテ】「聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない!!」
シャルはベッドに突っ伏し両耳を押さえて、涙目になってる。
【フランシスカ】「クラウディオ、部屋に入りますわよ」
「ああ」と短く答える。
【フランシスカ】「明かりの交換に来たのですが、少々遅かったようですわね」
部屋に入ってきているのだろうが、暗くて姿が見えない。
【フランシスカ】「シャルロッテ、どうしたのですか?」
暗闇からのびる手がシャルの肩を触られる。
【シャルロッテ】「クラウの・・・・クラウの・・・・馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
シャルは叫びながら、部屋を出ていってしまった。
シャルの行動に珍しくシスカが驚いた顔を見せている。
そのシスカの手は、シャルがいなくなったので宙をさまよっていた。
【フランシスカ】「シャルロッテは、どうしたのですか?」
部屋に入ってきた時のシャルと同じように、俺は「あはは」と乾いた笑いを零す。
………
……

ヘズミックから帰ってきて数日後、傷も塞がり村医者に治療後の経過を見せに施療院へ行き、村医者にほぼ完治と言い渡された。なので、そのまま仕事の依頼主の元へと出向いた。
その途中でこれから買い物に行くのか空のバスケットを持ったシャルを見かける。
シャルは俺の姿を発見すると、呆れ顔でため息をついた。
【シャルロッテ】「クラウ、あなた昨日までベッドの上で生活してたのに・・・大丈夫なの?」
シャルは、少しだけ心配そうに表情を曇らせる。
【クラウディオ】「献身的に看病をするシャルの姿と・・・あの!膝枕の感触があれば・・・」
そう答えた瞬間、シャルは顔を赤くして、まくし立ててきた。
【シャルロッテ】「膝枕?一体何を言っている?夢でも見てたんじゃない?」
【クラウディオ】「ヘズミックから帰ってくる荷馬車の中で、シャルがしてくれていたに膝枕が夢?そんな筈は、ない!シャルの柔らかい膝の感触、膝から伝わって来るシャルの優しい温かさ、そして…匂い!その一つ一つが、ありありと鮮明に思い出せる。それが、夢の筈がない!」
拳を振り上げて力いっぱい力説すると、いきなり顔面に向かって蹴りが飛んできた。
【シャルロッテ】「な、何を恥ずかしい事を力説してるの!」
シャルは耳まで真っ赤にして照れていた。
【クラウディオ】「恥ずかしい事?いや、一番重要なことだ!」
鼻息荒くしてキッパリと断言する。
【シャルロッテ】「そんなことないわよ! もう帰るわ!」
シャルは来た道を走って戻っていった。
依頼人に話を聞くと案件は猫探しだった。
人間の何倍の嗅覚を持つ人狼。猫探しぐらい簡単だろうと、侮っていた。
町外れの肥溜めに落ちたのか、その付近で匂いがかき消されていた。
何者かに襲われて肥溜めにでも落ちたのだろう。
迷い猫探し、当てが外れ意外と難しい。
迷い猫の目撃情報と聞き込みをし、日の高い内に迷い猫を探し当てる。
猫探しも終わり、あてもなく何をしようかと歩いていた。
突然、向こうから騒ぎ声が聞こえてきた。時折悲鳴のようなものも聞こえてくる。
【村人1】「はぁはぁ・・・・・・誰か、助けてください!馬が脱走してしまって・・・」
その場に野次馬が沢山いるはずなのに何故か、その村人と目が合う。
【村人1】「クラウディオさん!お願いだ。助けてくれ!」
見ている方が気の毒に思ってしまうほど、何度も何度も頭を下げた。
【クラウディオ】「仕方が無いな。報酬は高いぞ」
【村人1】「ありがとう。俺は足が悪くて走れないんだ」
村人は下げ肩をふるわせていた。
【村人1】「馬は村の北入り口へ走っていったんだ。よろしく頼む!!」
うなずいて返事をすると、地面を蹴り村の北入り口へと駆ける。
地面には馬のものであろう真新しいひづめの跡がぽつぽつと続いていた。
そのひづめの跡をたどっていると、シスカの姿が見えた。
【フランシスカ】「クラウディオ、どうしたのですか?そんなに急いで」
シスカは、あからさまに心配そうな表情を浮かべる。
【クラウディオ】「ごめん。今説明している暇がないんだ!」
依然心配そうな顔のシスカを横目に、北入り口へ向かう。
あと少しで北入り口に着く頃、周囲には恐がり、そして逃げ惑う村人が多くなってきた。
【村人2】「きゃあああぁぁ!!」
突然村人の一際大きな悲鳴が聞こえた。
悲鳴の聞こえた方を向くと、馬の前には簡素な布に包まれた赤子、その赤子に懸命に走りながら手を伸ばす母親が目に入った。
赤子の目の前の馬は、大袈裟に騒ぎ立てられ興奮した様子で、ひづめで何度となく地面を蹴り付け、土を散らしている。
馬の様子を見る限り、今にも駆け出して赤子を踏み潰してしまいそうた。
【村人2】「いやぁあ!やめてぇええ!!」
村人の声に反応したかのように馬は赤子目がけて凄い勢いで突進する。
駆け出し赤子の間に割って入り、馬に手を伸ばし歯を食いしばり必死に押しとどめようとする。が、触れた直後に馬は、激しくいななき気が狂ったように激しく暴れだした。
【クラウディオ】「そんなに、触れられたのが気に入らないのか」
一瞬放れた手を再び馬を押さえようと手を伸ばそうとした。
【シャルロッテ】「触っちゃだめぇぇ!!」
突然後ろから声をかけられて、伸ばしかけた手を慌てて引っ込める。
【シャルロッテ】「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・・」
シャルは走ってきた為荒げた呼吸を整え、首筋から流れ落ちる汗を手の甲で乱雑に拭う。
【シャルロッテ】「よく見て」
シャルに言われたとおり、膝を折って顔を彼女と同じほどの高さにし良く見てみる。
【クラウディオ】「銀髪の毛は顔に張り付き艶々とし、乱れた服も汗で肌に張り付いて身体の線が・・・」
【シャルロッテ】「わ、私じゃなくて。あっちよ、あっち」
恥ずかしさで顔を赤くしたシャルは慌てて顔を背け、馬の方に指をさした。
シャルの指差した先を見ると、馬の額に小さな角があった。
【クラウディオ】「気性が荒々しく頑なで、馴らすことが出来るのは、穢れを知らない女だけか」
【シャルロッテ】「食事当番、一週間分ね」
シャルが口元に笑みを浮かべ、馬へゆっくり近づいていった。
【シャルロッテ】「大丈夫よ、安心して。何もしないから」
シャルは馬に対して、話しかけ始めた。
馬は激しく威嚇したが、構わずシャルは説得を続ける。
【シャルロッテ】「ちょっと怖かっただけよね?」
穏やかなやさしい口調で話しを続けていると、段々馬は落ち着きを取り戻してきた。
【シャルロッテ】「そう、良い子ね」
シャルが馬の首筋を撫でながらつぶやくと、馬は嬉しそうにいなないた。
【シャルロッテ】「じゃあ、約束通り食事当番、一週間よろしくね」
シャルは、こちらを向いて嬉しそうに微笑んだ。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
木々の間にシスカの姿を捉えると地を蹴り疾走し、シスカとの距離を詰める。
【フランシスカ】「いい判断です、クラウディオ。ですが」
シスカが、こちらに向かって一直線に距離を詰める。
慌てて後ろに下がるが、それでもシスカは強引に距離を詰める。
至近距離から放たれるシスカの蹴りを無理矢理上体をそらし避ける。
体勢を崩したシスカの隙をついて拳を放つ。
捉えたと思えた一撃は、空を切る。
【フランシスカ】「甘いですわよ、クラウディオ」
手首を掴まれ、そのまま投げ飛ばされ木に叩きつけられる、
【クラウディオ】「あぐっ」
呻き声が洩れたる。すぐさま、横っ飛びにその場を飛び退く。次の瞬間、木にナイフが数本突き刺さっているのを一瞥し、ほっと安堵した。
【フランシスカ】「まだまだですね」
背後から声を掛けられ一瞬身を固め、苦笑しながら降参と両手を挙げた。

激しい訓練を終えて体力を使い果たし、くたくたな状態で足を引き擦りながら村に帰ろうする。
すると、朝はカラッと晴れていた蒼い空に、気付くと少し灰色の雲がかかり始めていた。
【クラウディオ】「もうすぐ一雨来そうだな」
右手で日差しを遮りながら空を見上げながら、そうつぶやいた。
疲れきった体に活を入れ駆け足で村へ向かう。
あともう少しで村に着こうとした道中、正面にはシャルがこちらに歩いてきているのが見えた。
いろいろと考え事をしながら歩いているのか、こちらには気づいていない。
それならと、ちょっと驚かせようと素早く物陰から音もなく近づく。
【クラウディオ】「お〜ぃ、シャルぅぅぅぅぅ〜!!何・し・て・ん・の?」
と、にんまりした笑みを浮かべ、顔近づけて覗き込む。
【シャルロッテ】「きゃっ!」
シャルは驚きのあまり、小さく悲鳴が漏れ手に持っている少し使い古した3本の傘を落とし、同時に地面にしりもちをついてしまう。
【シャルロッテ】「ッんもう!何をしてくれるのよ馬鹿クラウ!!」
シャルは、直ぐさま思いっきり非難の声を上げる。
【クラウディオ】「またまたぁ、俺と会えたことがそんなに嬉しかった?」
【シャルロッテ】「折角、雨降りそうだから傘を持ってきてあげたのに!」
シャルがしりもちで付いた汚れを両手ではたき落としながら起き上がる。
【クラウディオ】「悪ぃ悪ぃ、ありがと…」
シャルの頭を撫でようとした時、シャルが拾った傘でその手をバシンッ!と叩き落し、更に傘を思いっきり振り上げて頭頂部をぶっ叩く。
【クラウディオ】「ぎょえええぇ!!」
軽く涙目になりながら思わず叫ぶ。
【クラウディオ】「痛てえよぉ!」
【シャルロッテ】「ふんっ、さっき驚かされたお返しよ!」
シャルはしてやったりと言わんばかりに無い胸を張って、得意げに言う。
その瞬間、灰色一色だった空が一瞬だけ白く光る。まったく間を置かず、雷鳴とともに大粒の激しい雨が降りだす。いきなりの雨に二人は、傘をさす間もなく全身びしょ濡れになった。
【シャルロッテ】「あぁもうっ!あんたのせいでびしょ濡れじゃない!!」
シャルはもう雨に濡れる事もおかまいなしに持っていた傘をささず、こちらに勢い良く向かってくる。
そのまま手にした傘を大きく振りかぶり、勢いよく振り下ろした。
【クラウディオ】「おっと、さすがに何度も食らってたまるか!」
振り下ろされた一撃を事もなげにそれをかわす。
【シャルロッテ】「ちょっ、ちょっと待って・・・」
先ほどよりも力が入りすぎてしまったのか、勢いがよすぎて頭から地面へと倒れそうになっている。
考えるより早く地面を蹴り、シャルに腕を伸ばし、抱きかかえて庇おうとした。
が、上手く支えきれずに抱き合ったまま半回転し、俺を下にして水溜まりの上に倒れた。
倒れた衝撃で、水溜まりから派手に泥水が跳ね上がる。
【シャルロッテ】「〜〜〜っ!」
シャルは声にならない悲鳴を上げて身体を硬直している。
ずぶ濡れのシャルは仰向けの俺の腰の上に馬乗りになっていた。
お互い無言の状態が少し続くと、目を丸くして緊張と、羞恥で硬直しているシャルの顔に口を尖らせてキスをしようとする。
【クラウディオ】「むちゅぅ〜」
【シャルロッテ】「何をしようとしてるの?」
問うシャルに悪びれもせず爽やかに微笑み答える。
【クラウディオ】「シャルにキスしようとしてた」
パァン、と甲高い音が響き、 頬に鋭い痛みが走る。
【シャルロット】「何事にも順序ってものがあるでしょう!」
頬をうっすらと赤く染めながら目を反らした。
【シャルロット】「べ、別にあなたとそういうことがしたいとかじゃないわよ!」
【クラウディオ】「ふむ、順序か。」
どうすれば良いのか、ほんの少し思案して口を開いた。
【クラウディオ】「シャル、キスしよう!」
再度響き渡るパァンという甲高い音。
それと時を同じくして、さっきまでの雨が嘘のようにピタリと止んだ。
【クラウディオ】「2度も叩いた! 親父にも叩かれたことないのに!」
【シャルロッテ】「うるさいわね。それより、この服どおしてくれるのよ!」
シャルは怒りのままに、語気を荒げる。
そんなシャルに軽くため息を付き、まるで小馬鹿にするような口調で話した。
【クラウディオ】「そんなの濡れただけじゃねないか、乾かせばいいじゃないか」
【シャルロッテ】「あんたが乾かしなさいよね!」
怒りに顔を赤くしたシャルに怒鳴られると、軽く顔を逸らしニヤリと口の端を歪めた。
【クラウディオ】「乾かすなら、まずはその服をぬがないといけねえなぁ」
悪代官のような笑みを浮かべながらシャルに言った。
【シャルロッテ】「へ?」
一瞬何を言われたのか理解できず、呆然とした後、シャルは胸を両手で隠しながら睨みつけてくる。
【クラウディオ】「さぁ、お嬢様。ここは俺にまかせて・・・さぁ、さぁさぁ!!」
目をキラキラさせワキワキと手を動かしながらシャルに1歩、また1歩と迫る。
【シャルロッテ】「ひっ・・・!も、もういいわよ!このスケベ!!変態!!ド変態ーっ!!」
声を上擦らせながら、そう言って思わず後ずさるシャル。
【フランシスカ】「どうしたんですか。二人とも、ずぶ濡れで」
突然背後から声をかけられ、思わず飛び上がらんばかりに驚いた。
【シャルロッテ】「わ、私はシス姉に傘をとどけようとしただけで、クラウが邪魔して、それで・・・」
シャルは慌てふためいて、必死に弁解を始める。
【クラウディオ】「俺は何にもしてないぜ」
振り向きながら、いちおう反論する。振り向いて確認したシスカの姿は雨に濡れた跡は全く無かった。
【シャルロッテ】「なんですって!!」
【フランシスカ】「やめなさい、シャルロッテ。傘で人を殴ってはいけません!」
激昂して再び傘を振り上げブンブン振り回し、吠え掛かるシャルをシスカは一喝する。
【シャルロッテ】「んぐっ。だ、だって!クラウが・・・」
シャルが涙目で必死に抗議の声を上げるも、シスカは遮り問いかけてくる。
【フランシスカ】「クラウディオ。シャルロッテの邪魔をしたのは本当なのですか?」
迫力のシスカに押されて慌てて口を開く。
【クラウディオ】「じゃ、邪魔をしようとしたんじゃなくて、ただ驚かそうと・・・」
少し残念そうな表情で、シスカが肩を落とす。
【フランシスカ】「クラウディオ。あなたは驚かそうとした結果がシャルロッテの邪魔になったのです。」
【クラウディオ】「むぅ……、はい」
有無を言わせぬシスカの威圧感に圧倒され、うなずくしかなかった。 【フランシスカ】「シャルロッテも、傘は人を殴る物ではありません」
【シャルロッテ】「え、私?・・・はい」
突然話を振られてちょっと慌てた様子でシャルが答えた。
【フランシスカ】「殴るのでしたら、素手でおやりなさい」
【クラウディオ】「素手ならいいのかよ・・・」
シスカの言葉に少々呆れながら、そう言った。